キマイラ(制作年代不明)



解説

ボルヘスの「幻獣事典」によると、キマイラが初めて語られた書物は『イーリアス』第六書である。その後にヴェルギリウスによって書かれた『アイーネス』第七巻においては炎で武装しているという。この奇妙で恐ろしい動物は何者なのであろうか。ブルタークは「キマイラ」なる名の海賊がモデルであろうと推測している。彼は船に獅子、山羊、蛇の姿を飾りつけた。セルヴィウス・ホノラトゥスは「キマイラ」なる名を持つ火山がモデルであろうと推測している。この火山は、ふもとには蛇が生息し、山の中腹には山羊が生息し、そして山の頂上には獅子が生息しているのだとか。
キマイラは現在では、荒唐無稽な奇想の代名詞として用いられる。私は何度かこのキマイラについてのナンセンス小説やナンセンス詩を書かんと試みたことがあるが、いずれも失敗している。道化役者はサーカスをテーマにした映画をつくることが難しいのだ。結局のところ、この一枚の絵が私とキマイラを辛うじてつなぎとめているだけである。copyright2006(C) OKADA HUMIHIRO