大学1年生のみなさんは、入学直後に塾や学校から「受験体験記」なる原稿を書くよう依頼されたことでしょう。
僕も複数依頼を受けた。適当に書いたものもあれば、わりと真摯に書いたものもある。
ここに掲載する原稿は、僕が母校である岡山朝日高校からの依頼を受けて執筆したものである。
なかなか僕の受験記なぞは読む機会もないだろうから、それなりに興味深いのでは?
感無量です。高校三年間ずーっと憧れ続けていた、受験記の執筆です。このような素晴らしい機会を提供してくださった先生方の思いやりと英断(?)に、海よりも深く感謝しています!絶対に枚数超過すると思いますが、ノーカットで掲載してくださることを本気で信じて(笑)筆をとらせていただきます。
<覚醒>
僕が「本当の意味での」受験生になったのは、2006年12月16日のことでありました。その日は、11月に受けた最後の東大模試の返却日でした。これは非常に大切な模試で、志望校の最終決定に大きく影響するものです。
結果は、駿台がE、河合・Z会がDでした。
どん底です。僕は思わず気を失うかと思いました。何故よりによってラストの模試、これから最後の追い込みをかける直前の模試でこんな判定を出しちまったんだよ!
それまでの僕はずっと、だいたいC判定で調子がよいときはB判定、実力テストは基準点すれすれぐらい、という、「まぁ五分五分、これからの頑張りと運次第で入れるんじゃねぇの?」という状態(すなわちボーダーライン)にありました。決してよい成績ではなかったとは言え、E判定、D判定なぞ殆どとったことがありませんでした。
とは言え、この無残な結果は、正直なところ「あぁ、やっぱりなぁ・・・」という感じでした。僕は朝日祭終了後、近づいてくる入試本番への不安と焦り、周りの友人たちが発するピリピリとした緊張感に押し潰されて、勉強する意欲が湧かず苦しんでいたのです。たぶん三年の二学期は、僕が高校のうちで一番勉強をサボっていた期間だったのではないでしょうか。そんな中で受けた東大模試です。終わった後「なんかあんまり手応えがよろしくないなぁ・・・。ひょっとするとD判くらいなっちゃうかも」とは薄々思っていました。薄々思ってるなら勉強しろよ!とみなさん思われるでしょうが、それが出来なかったから困ってたんだよ!
最悪の気分で結果を持って帰り、父親に見せました。予想に反し、怒られずに励まされました。(もう、励ますしかない状況だったのですな)まだ本番までは2ヶ月以上ある、それだけあれば十分間に合う、と。そして翌日、父親は丸善に赴いて、山のように参考書を買ってきてくれました。僕はその新品の参考書の山に勇気付けられ、もう一度頑張ってみようと決意しました。
<センター>
僕はマーク式問題が苦手です。「好きに答えを書かせろ!」「部分点大歓迎!」という我儘受験生なので。というわけでセンターが悩みの種でした。とにかく点が出ない!朝日高校が推進するセンターマラソン中も、思ったように得点が伸びず、伸びるどころか縮んだりして(たぶん現役東大合格者で、二回も600点台とったのは僕ぐらいのもんじゃないんでしょうか)真っ青な顔で毎日登校しておりました。(あんまり僕の顔色が悪いせいで、職員室の先生方に色々ご心配をおかけしましたことを、この場を借りて謝罪します。有馬先生曽根先生西原先生それから他にも・・・)
そんな鬱陶しい気分で迎えたセンター前日。先生方による恒例の壮行式が行なわれました。いつも以上にテンションの高い先生方のギャグのおかげで、憂鬱がふっとんだ気がしました。そして、「朝日高校」というロゴの入ったジャンパーを着た先生方による「忍たま乱太朗」の主題歌の斉唱・・・。一番目は爆笑しながら見ていましたが、二番目以降は泪が出て止まらなくなりました。こんな生徒への愛情に溢れた先生たちと三年間過ごせて本当に幸せだった・・・と、僕は卒業式用の泪をその時全部流してしまったのでした。
そのおかげか、本番ではいつも以上に落ち着いて問題が解けました。大半の問題で今までの最高点か、それに準ずる点数をとることができ、まずまずの結果が残せました。今思えば、傾向が大きく変わった日本史ではなく、世界史で受験したのもラッキーでした(とある先生の「(日本史教師である)私が言うのもなんだが、世界史で受けた方が点が出やすいぞ!」というアドバイスを真に受けたお蔭でした)。
<前期試験>
センターから二次までは1ヶ月です。しかし、恐るべき長さを持った一ヶ月です。僕は辰田先生と田村先生の論述指導に足しげく通う日々を送っていました。(これがその後、思わぬ役の立ち方をするとはいざ知らず・・・)
さて、前期試験ですが、前日に覚えた公式がまんま出たり、辰田先生が二問も予想を的中してくださったにも関わらず、僕の元に届いたのは『自分の受験番号が載っていないレタックス』と『もういっぺん東京へ出て来い、という後期試験の通知書』でありました。
<後期試験>
みなさんは頭脳警察というBANDの『やけっぱちのルンバ』という歌をご存知でしょうか。僕はこの歌のサビ「ヤケッパチヤケルンバ!ヤケッパチヤケルンバ!ヤケヤケッパチルンバ!ルンバ!バババババ!」というアホな部分を頭の中で繰り返し再生しながら東京に旅立ちました。もうヤケクソです。しかし、痩せても枯れても「後期の最有力候補」(本当にそう呼ばれてたんだよ)なので、ヤケは程々にして、心を落ち着かせました。
東京のホテルで、自分の点数が合格点に10点足りなかったことを知りました。俺らしいわ・・・と思わず苦笑。
後期試験の戦場は本郷、あの有名な安田講堂や三四郎池のあるところ、です。追い詰められた人間たちがずらり集った様子は圧巻でした。まぁ、僕もそのうちの一人だったのですが・・・。
一時間目の英語は、開始30分はいまいち英文が頭に入って来ずに苦戦しましたが、10時になった途端に疑問がすべて氷解しました。ここでアドバイスその1、諦めの悪さも作戦のうち。氷解してからはチョロイもの、ノリノリで答案作成にいそしんでいると、知らないうちに激しく貧乏ゆすりをしており注意を受けました。ちなみに僕の前後に座っていた人は軒並み落ちていたのですが、僕の貧乏ゆすりが原因だったのかもしれません・・・。
昼食時間に、70歳が来ようかというようなお爺さんが受験しに来ていることに気がつきました。彼は会社も定年退職し、息子も大きくなり孫が生まれた今、第二の人生を、東大生として歩もうとなさっているのでしょうか・・・。これには感動しましたね。あのお爺さんに負けないように、僕もがんばろう!と決意をあらたにしました。
二時間目の小論文は、勝負が早かったですね。最初はチマチマとメモ書きを作ったりしていたのですが、そのうち頭の中で構成がすっかり出来上がってしまうと、「あぁもうまどろっこしい!!」と、下書き一切無しにいきなり書き始めてしまいました。すると筆が進むこと進むこと、小一時間で2400字ほぼピッタリの答案が完成していました。
こんな「下書きなし」などという荒業が可能になったのは、辰田先生と田村先生の論述指導のおかげでした。先生たちが用意した、「○○について、××との関係に触れながら、△△という語句を使って□百字以内で述べよ」というような無理難題を一日にいくつもいくつも書き飛ばしているうちに、「だいたいこの内容でこういう風に書けば、これくらいになるよなぁ」というのが体でわかるようになったのです。アドバイスその3、論述だの小論試験だのが必要な人は、自分が書いた文章がどのくらいの字数なのかを、数えずとも直感でわかるぐらいになるまで練習を積むこと!
それから、結果待ちの一週間(これが何と言っても地獄。受験生活のうちで一番苦しかった)を経て、僕は東大から「来月から通っていいよ」というお誘いを頂戴することができました。感動の余り、大爆笑しました。(涙よりも笑いが出てしょうがなかった)
ちなみに試験場でみかけたお爺さんも合格していました!よかったね。
<教科別対策>
長い思い出話は終わって、少し実用的な話を・・・。
国語・・・現代文は、何よりもまず活字に慣れる事。新聞の社説を読め、とよく言われますが、ちょっとキツイなぁという人は、車雑誌でもロック雑誌でもいいから、とにかく「活字を」読んでみましょう。(ちなみに僕はだいぶ本を読む人間ですが、一番熱心に読む出版物は洋楽CDの解説だったりします 笑)大事なのは「繰り返し読むこと」。
古典はしっかり対策しましょう。1,2年のときは面倒くさがらずきっちりノートを作って、しっかり辞書をひいて調べる。3年になったら自力で訳す練習をする。とにかく古典対策は量をこなすことがなによりも大切!
数学・・・僕が聞きたいぐらいです。
英語・・・スクリプトを声を出して読んでみること。これが非常に大切。それから、やはり量をこなすことですね。読んだ英文の多さに比例して英語力はつくものです。
社会(世界史)・・・よく「歴史は流れで覚えろ!」とか「一問一答形式ではだめだ、複数の歴史上の出来事を連結させて覚えろ!」とか耳にタコができるほど言われてますよね。しかし「じゃあどうやって勉強すればいいのさ?」という疑問にはあまり答えてもらえないものです。相も変わらず書店に並んでいるのは一問一答形式の問題集か、時代別に厳然たる章わけが行なわれた参考書ばっかりです。(そんな状況下で、唯一『ヨコから読む世界史』(斉藤整、学研)が異彩を放っています。良書なのでぜひ読んでみてください。ただし薄いので、これだけではあまりに不十分ですが。)
それで、僕個人の意見なのですが、「タテの流れをしっかりやれば、自然とヨコが理解できるんじゃないのか?」ということ。まず最低限、主要な国が興った世紀と、主要な戦争が起こった世紀は一覧表にして確実に覚えましょう。(ここで問題、14世紀に興った国はどこでしょう?・・・・・答え:アユタヤ朝、ティムール、明など)「直接は問われないから」という理由で年号や世紀の暗記をおろそかにしている人がいますが、覚えた方がいいです。(というか、覚えないときついですよ)ここで一冊、問題集を推薦しておきます。『入試に出る世界史B用語&問題2000』(Z会出版編集部編)です。ひょっとして世界史問題集の最高傑作では?と、僕は思っています。コンパクトな新書サイズで、左側はややマニアックな一問一答問題、右側はテーマ史のまとめが載っています。この右ページのまとめが秀逸で、ややこしい中国王朝の興亡だの、普通の参考書では扱いがいい加減な(その割りによく問われる)東南アジア史だの、中世の教会史だの、センター対策はもちろん二次の論述対策にも対応できるスグレモノ。世界史がめちゃくちゃ苦手な人でも、これ一冊やればセンターで楽に満点とれるようになります。(たぶん)
<模試について>
模試は、勿論たくさん受けた方がいいです。(しかし、受験直前期になって大量の模試を受けるのは逆効果です。体力も自信も自習時間も喪失します。同じ理屈で、滑り止めをたくさん受けるのもオススメできません。むしろ一本で突っ込んで行く方が安全なのでは・・・?と思います)
さて、受験生はどのように模試と付き合うべきなのか。
まず第一に、模試は時間配分の練習になります。受験は時間との戦いです。時間の使い方で合否は大きく左右されます。模試は練習なのですから、宅習ではなかなか味わえない緊張感&切迫感の中で「よし、今日は最後の問題から解いてみよう」とか「@→A→E→D→C→Bの順にやるぞ!」とか、色々試行錯誤をしてみてください。模試は、自分に合った「解き方のスタイル」を発見するのに格好の道具ですよ。
それから、(よく言われるアドバイスですが)必ず解き直しをすること!弱点補強にもなるのは勿論のこと、知識の定着にもなります。イマイチ点が出ない、という人は、ひとまず過去の模試を引っ張り出してきて解き直してみてはどうでしょう。わりと効率よく力がつくと思いますよ。
<朝日高の実力テストについて>
よく「実テって、私の志望校の問題とは全然形式も傾向も違うから、受けても意味ないわよ」というようなことを言う輩がおりますが、これは大きな間違い。実テで基準点を取るのは志望校合格の最低条件です。いくら東大の問題と実テの出題形式が異なっているとは言え、実テで65点とれる実力がなければ東大の問題でも合格点とれないのです。腕立てが10回できない人がウエイトリフティングも出来ないのといっしょです。がんばって基準点とれるようになりましょう。悪夢のように手強いテストですが(笑)
<センターについて>
とにかく直前の一ヶ月勝負です。コツコツやっても伸びないのがセンターの怖いところ。そのかわり、集中して対策すれば100点伸びます。12月末まではセンターのことは考えないこと、そして正月から本番まではセンターのことしか考えないこと!これがセンター攻略の全てです。ちなみに、さして重要視する必要はないとは言え、あまりにもバカにしていると足切られたりもするので、十分気をつけてください。苦手な教科は、超基礎的で薄っぺらい参考書を買ってきて、覚えていなかった事項をどんどん書き込んで自分専用参考書を作りましょう。それからダミーの解答には、間違っている箇所に線を引いて訂正するクセをつけると、力がつきますよ。
<本番について>
僕は本番が一番気楽でした。この三年間、食事をしている時も、友達にメールを打っているときも、テレビを見ているときも、そして勉強をしている時ですら、常に深層心理のどこかで本番の入試への不安が暗い影を落としていました。しかし、わざわざ言うまでもなく当たり前のことですが、本番の真っ最中に「本番が不安だ」なんてことは思わないわけで(笑)ただただ目の前の問題のことだけを考えていればよかった。そう、本番は言わば「実体化した不安」なのです。そして、不安は実体ではないから「不安」であるわけで、「実体化した不安」は最早恐ろしいものでも何でもなくなっているのです(ちょっと難しいけどわかるかな?)。
よく、試験に失敗した原因として「周りの人の鉛筆の音がうるさくて、集中できなかった」というような言い訳をする人がいます。そういう人は大きな間違いを犯しています。
「鉛筆の音がしたから」落ちたのではない。「鉛筆の音が聞こえるような、緊張感のない精神状態だったから」落ちたのです。本気で問題を解こうとすれば、周りの音なんて全く聞こえなくなりますよ。
ともかく、本番は目の前に配られた問題のことだけ考えていればいい、それだけです。正直な話、本番の前に勝負は8割方ついているのです。日々の勉強は本番の延長なのですから!
<『速単の会』ついて>
僕は三年の時、文系東大志望者の友人数人と『速単の会』というグループを組んでいました。このグループは、始業前(後には金曜の放課後)に英語の勉強会を開き、みんなで英語力をつけて東大合格を勝ち取ろうぜ!というコンセプトの元で活動していました。三年の前半は、グループ名の由来でもあるZ会の『速読英単語』を教材に使用していましたが、三年の後半からは、なんと会員自らが東大の予想問題を作成し演習を行なうという(多分全国的に見ても例のない)前代未聞の勉強会へと進化を遂げました。そして結果的に、『速単の会』は文科一類、文化二類、文科三類のすべてに合格者を出すという輝かしい伝説を残しました。(そんじょそこらの予備校より、よっぽどハイレベルだったと自負しています)
まぁこれは極端な例ですが(笑)受験は団体戦なので、同じ大学を志望する友人と刺激を与え合い、情報を交換し、切磋琢磨し、そして苦楽を共にすることはとても大切なことだと思います。友人を大切に!(だんだん説教じみてきたな)
<最後に>
冒頭での宣言どおり、枚数超過しちゃいましたね(笑)ここまで読んでくださったみなさん、そして確信犯的枚数超過にも関わらず全文掲載してくださった先生方、ありがとうございました。最後に一言。特に来年東大に来る可愛い後輩たちに・・・。
ドラゴン桜は大嘘です。「東大は簡単だ!」どこがだよ。
東大受験者に求められるものは、神業のような受験必勝テクニックではない。(というか、そんなものは要らないし寧ろ邪魔になる)朝日高校の授業&課題と、Z会の添削を地道にこなせば絶対に東大は受かります。ただし「完璧かつ丁寧に、手を抜かず」やること。東大は何よりもまず「欠点のなさ」と「確実性」を要求します。(まぁ、この要求を満たすのって、テクニックを覚えるのよりも遥かに難しいのだけれども・・・。)
受験は神秘。「東大にいける実力がある人」と「実際に東大に入る人」とは同じようで微妙に違う。出来ればみんなが前者兼後者、それが無理ならとにかく後者になれることを、心より願っています。東大は涙が出るほど素敵な大学だよ。
copyright2006(C) OKADA HUMIHIRO